英字紙ウォッチング

英語メディアの経済、政治記事を定点観測

今年のジャクソンホール

 Fedインフレ目標を仮に引き上げたらどうなるか。
 6年前、IMFのチーフエコノミストだったブランシャール氏が2%ではなく、4%のインフレ目標を掲げるべきだ、というアイデアを出したことがある。当時、それは間違った考えだと述べたのだが、間違っていたのは私(Ip氏)のほうであるようだ。
 2010年以降起きたことをみると、Fedインフレ目標を引き上げることを真剣に検討すべきだったと言わざるを得ない。
 Fed内部でも再考の動きがある。先週、サンフランシスコ連銀のウィリアムズ総裁が、より高い数値のインフレ目標を掲げた場合についてニュースレターの中で言及した。これは来週のジャクソンホール会合での議題になることを意識している。
 このペーパーでは、歴史的に低インフレのケースでは、高いインフレになると経済に矛盾を引き起こし、より頻繁にリセッションが起きるようになるとの考えかたが前提にあるとしている。むしろ、低インフレやデフレのリスクは些細なリスクであると考えられていた。というのも、中央銀行がより多くの紙幣を印刷することを約束することで、容易にインフレを起こすことができるからだ。
 しかし、2008年に世界中の中央銀行がゼロ近くまで金利を下げ、紙幣を刷っても、成長はパッとしないままである。
 より高い平均的なインフレ率とそれに伴うより高い名目金利からスタートすれば、より金利の引き下げ余地が出る、とブランシャール氏らは述べた。
 以下は当時の私の反対理由とそれがいかに変化したかについて、である。
 一つは、いったんインフレ目標を上げると、それがいずれ人々の期待にアンカーされなくなる危険性がある。また、インフレ率が上昇すると、個々の価格はより変動が激しくなり、経済は一層不効率になる。
 後者は今も正しいが、より高いインフレ率の弊害はミクロでみると、見つけにくい。NBERが最近公表した論文によると、1970年代から1980年代初めにかけてのいわゆるグレートインフレーションの際、個々の物価はそれほど広範囲に上昇していたわけではないことがわかっている。
 3番目の論点はわかりやすい。これは、インフレ率は現在2%を下回っており、これを引き上げる方法が見つからないいま、インフレ目標を引き上げると、中央銀行の信任を毀損しかねないことだ。ここでは日本の例を持ち出し、より高いインフレ目標を掲げることで、ゼロから脱することができたとしている。
 でもこれはどうかな?事実誤認ではなかろうか。
 http://blogs.wsj.com/economics/2016/08/19/the-case-for-raising-the-feds-inflation-target/
 この記事のもとになっている、2010年2月のブランシャールペーパー。「マクロ経済政策の再考」とのタイトルがつけられている。
 https://www.imf.org/external/pubs/ft/spn/2010/spn1003.pdf