英字紙ウォッチング

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株安と新たな通貨戦争

 米国の株価が乱高下している。先週1週間は過去10年間でもっとも厳しい下落幅となった。Fedが0.5%ポイントの利上げを決めたという環境が大きい。

 ナスダック指数は金曜日に1.4%下落した。S&Pは0.6%の下落だった。指標となる米国債金利も高騰した。

 この株式市場の動きは、1週間にわたって続いた。その結果、株価の下落傾向は5週間も続いている。

 これほどの株価下落は2011年6月以来のことである。当時はユーロ圏の債務危機が金融市場を襲っていた。

 今週の取引は、いくつかの日は力強い上げ相場だったが、それ以外の日は大きく売り圧力にさらされた。今後も苦痛に見舞われる日が来ると金融界はみている。というのも、インフレ時代が本格的に到来し、世界中で金融政策の大転換が起きつつあるからだ。

 水曜日にFed政策金利を0.5%ポイント引き上げる決定を行うと、投資家は当初好意的に反応した。というのも、パウエル議長が0.75%ポイントの利上げは否定したからだ。しかし、最初の反応はその後2日間にわたる大幅に売りでかき消された。

 アナリストや投資家はこうした大きな株価の振幅に対し、複数の理屈を当てはめようとしている。つまりは、市場に混乱が起きているということに尽きるのだろう。

 1つは木曜日にイングランド銀行が利上げを決定したことを挙げる向きもある。予想では近い将来にリセッションが到来するとみられながらの決定である。

 国債金利が上昇していることも、特に株価に重しとなっている。10年債の利回りは3%を超えた。その結果、不動産投資家の一部は売りに動いている。

 金曜日には雇用統計が発表され、雇用市場の動向は力強いままであることが示されている。4月の新規雇用者数は42.8万人を記録し、事前予想を大きく上回った。新規雇用者数の伸びが40万人を超えるのはこれで12カ月連続となる。

 賃金も同様に上昇し、4月は前年同期比で5.5%伸びた。賃金上昇の伸びはインフレが持続的なものとなっていることを示している。金利上昇を受け、ドルも主要6通貨に対して上昇し、20年ぶりのドル高水準となった。

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 ドル高観測により、新たな通貨戦争を予測する声があがっている。投資家やアナリストの一部には、これまでとは逆の通貨戦争の時期に入ったとの予想が出ている。逆の、というのは、これまでと違って弱い通貨を望まない通貨戦争、という意味だ。

 2007年以降の低インフレ時代が終わりを告げ、低金利と大規模な資産買い入れが避難を浴びる新たな時代に入った。

 コロナ後に物価が世界的に上昇する時代となり、中央銀行にとっての焦点は成長支援を求められる時代から、インフレ抑制の時代に入った。つまり、強い通貨とインフレ抑制が政策担当者に求められる時代なのだ。

 バスケット通貨と比べ、ドルは20年ぶりの高値をつけている。しかし、米国以外の中央銀行はドル高への見方を変化させている。通貨が弱いとインフレを引き起こす。ゴールドマン・サックスは、「逆通貨戦争」という言葉を早速使っている。通貨の1パーセントの下落を防ぐには、追加で政策金利を0.1%ポイント引き上げないといけない。

 ユーロは5年ぶりの安値を対ドルでつけている。ドルと、いわゆる「パリティ」になる可能性も指摘されている。

 ECB理事のシュナーベル氏は今週、インタビューの中でユーロ安によるインフレ圧力を注視していると述べた。しかし、ユーロ圏がロシア産ガスに依存していることを考えると、ECBがFedについていくことに困難が伴うと予想されている。

 イングランド銀行も、利上げを決めたのにも関わらず、通貨ポンド安が継続している。

 こうした動きに対し、日本銀行だけが孤立した動きとなっている。超低金利政策にこだわり、円は歴史的な安値に沈んでいる。

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