英字紙ウォッチング

英語メディアの経済、政治記事を定点観測

1980年代以降に生じた米国労働者の亀裂

 もうじき誕生するバイデン政権について。コロナ前のアメリカ経済は歴史的な低失業率と天井に到達するような株高を謳歌していた。しかし、それは多くの米国人には関係ないことだった。大卒でない人々にとって良い仕事は消え去り、こうした傾向は、経済政策を大きく修正しない限り、変わることはないだろう。

 アセモグル教授の論考である。

 バイデン政権の就任演説を前に、2021年の米国経済には楽観論が漂っている。しかし、そうした期待は間違っている。コロナウイルスは人々が考えるよりも長く問題であり続けるからだ。そして、本当の問題はコロナ前の米国経済が見習うに値しないものであるからだ。

 コロナ前の失業率は3.6%まで低下し、株高も実現した。しかし、米国経済には高い報酬と意味のあるキャリア形成の機会を提供するという意味で、「良い仕事」というものが足りていなかった。とくに大卒に至らない労働者にとってそうだといえる。

 1950年代から70年代にかけて、良い仕事は米国経済にとっての生命線だった。それは国民に幅広く反映をいきわたらせ、社会の統合をもたらす中間層を育てることになった。この期間の間は非常に良いペースで労働需要が成長した。労働者の賃金総額は人口の成長以上に伸びたのだ。このことは実質賃金が年率2%で成長していることを意味する。

 さらに注目すべきは、この成長は大卒の労働者であろうと、大卒でない労働者であろうと恩典は変わらなかったことだ。所得格差は安定的にそのままであるか、もしくは減少していた。

 しかし、この傾向は1980年代に変化した。2000年に入ると、こうした成長は停滞し、大卒労働者とそうでない労働者の間に大きな亀裂が生じたのだ。高卒労働者の実質賃金は減少に転じ、大卒の男性も1980年以降、実質賃金は大きく上昇していないのだ。

 コロナ前の労働市場は、労働需要が停滞し、労働者の所得は底の状態でありつつ、失業率が歴史的に低いという組み合わせが生じていた。米国経済は新しい職を生み出しつつあるが、それは低賃金の労働に集中しており、高賃金の職は低賃金の職にとって代わられつつあるといえる。

 男性のプライムエイジの労働参加率は減少している。失業中か求職中の男性の比率は25歳から54歳の間で1960年代は8%だったが、今は12%となっている。高卒男性に限ると、それは15%に達する。失業率がなぜ低いのかというと、求職者や失業者が労働市場から退出したためだ。

 なぜ労働参加率が低下したかというと、それは1990年代の社会保障改革やギグエコノミーの進展、所得税控除の仕組みが影響している。

 株高経済はけっして健全な経済の証であるとは言えない。

 https://www.project-syndicate.org/commentary/biden-recovery-good-jobs-for-all-workers-by-daron-acemoglu-2021-01