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再統一から30年、ドイツと歴史の終わり理論

 東西ドイツの統合から30年が経過した。ドイツはより役割を果たすべきである、という論調。

 30年前は、英国とフランスの外交官たちは、ドイツが分割されていることが望ましいと静かに認めていたかもしれない。しかし、ヘンリー・キッシンジャーの言葉を借りるのであれば、ドイツは欧州にとっては大きすぎるが、世界にとっては小さすぎるのだろう。

 1989年にベルリンの壁が崩壊し、マーガレット・サッチャーはフランスのミッテラン大統領を説得し、ドイツ統一を妨げようと実りのない画策を模索しようとした。少なくとも統合を遅らせようとしたのだ。それは、大きくなったドイツは欧州のバランスを崩すとの懸念があったからだ。

 スペインのゴンザレス首相のみ、当時の欧州首脳の中でドイツの統一に賛成した。

 それから30年。10月3日になり、ドイツは統一から30年を迎えた。当時、欧州の隣国が懸念したような暗い未来はやってこなかった。それどころか、欧州で相次いだ危機の最中、むしろドイツが自己主張するというよりも、ドイツの不作為によって度々悩まされることになった。

 昨年、ドイツの政府高官は寄稿したエッセイの中で、再統一後のドイツはフランシス・フクヤマの歴史の終わり理論をナイーブに受け止めた、と述べた。冷戦が終了し、国家の利益は多国籍の国際機関に取って代わる、と予言された。ドイツと欧州の利益は同じであると受け止めたのだ。

 その結果、ドイツはEU統合に深く関わることになった。それは東方への拡大だけでなく、フランスと共同し、既存加盟国の絆をより深める方向に作用した。統合された欧州の目標は、欧州憲法の中に深く埋め込まれた。ドイツ軍は、欧州の旗に忠誠を誓うというのだ。

 欧州通貨はしかし、物価の安定という一つの目標の元に、フランクフルトが支配する通貨となった。東ドイツを統合するコストやドイツの硬直した労働市場、高い税率は、1990年代末までドイツ経済を苦しめることになった。

 しかし、2000年代に入り、労働市場改革と好調な輸出市場のおかげで、ドイツ経済は上向いた。

 欧州危機後、ドイツの世論は変化した。2010年の世論調査で、ドイツマルクの復活を望む人は44%に及んだ。メルケル首相が押し進めようとした欧州諸国の救済策は、ドイツ議会では論争を呼んだ。ドイツを縛ろうという目的のあった欧州統一通貨は、逆に反対の結果をもたらしたのだ。

 ドイツに積極性がないという問題は、ヘゲモンとは何かという議論を再び引き起こすことになった。しかし、この議論自体、ドイツ自体が求める議論ではなかった。ユーロ危機の最中、ポーランド外務大臣は、ドイツの権力行使よりも、ドイツの不作為の方を懸念している、と述べた。

 https://www.economist.com/leaders/2020/10/03/thirty-years-after-reunification-germany-is-shouldering-more-responsibility