英字紙ウォッチング

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ドルへの圧力

 ドルへの金融市場の圧力。

 ここ数日間、金融市場には警戒を告げるベルが鳴っている。米ドルが安全資産としての地位を改めて確認しているのだ。しかし、長い目で見ると、ドルのこの地位は揺らぐかもしれない。

 2002年以来の高い水準まで上昇したドルだが、FRBによる実効為替レートは貿易赤字財政赤字の2つの圧力を受けている。同時に超低金利政策は当面、長い間続きそうだ。世界の株式市場が3月の混乱以来の下落を記録して以降、ドルは月間のピークと比べて9パーセントも下落した。

 世界の金融システムは、ドル建ての債務とドル建ての貿易取引によって成り立っている。特に新興国経済ほどドル依存度が高い。ドル安は同時に、米国の企業活動を支援する事になる。

 改めてのドル安は、米国経済が直面しているいくつかの挑戦を示している。エコノミストによると、コロナ前の水準まで米国経済が戻るのには、2021年後半までかかるという。特に、コロナ感染者の拡大は、サービスセクターを直撃し、雇用の見通しに暗い影を投げかけている。そして、米大統領選により、追加の財政刺激策は遅れている。

 選挙の結果に関わらず、ドルはドル安のサイクル入りしている、という指摘もある。双子の赤字問題が再び帰ってきた、というわけだ。ドルが世界経済の衝撃吸収源になっていたが、その機能も期待できないかもしれない。

 コロナウイルスの拡大により、米国の貿易赤字は一旦拡大基調を弱めている。一方、財政赤字は3.3兆ドルもの規模に達し、これはGDPの16%に相当する。

 これほどにも赤字が拡大にしているのにも関わらず、米国の金利の反応は鈍い。これは、米国経済と雇用の回復プロセスが相当の長期間にわたる、との市場の見通しを反映している。

 一方、中国の人民元は今年に入り、4%ほど上昇している。これは輸出が好調であることが反映している。人民元上昇は中国政府も容認していて、中国政府としては、中国経済をより開放的なものにしていく意思があるようだ。

 このことは、中国政府が長い目で見ると、ドル建ての資産から離れていくことを意味する。中国によるドル建て資産の保有は、米国の経常収支赤字を支えている。もし、世界経済が回復し、ドルの停滞がこれ以上続くと、ウォールストリートから海外資産が急速に流出するかもしれない。

 過去10年に渡ってドル高傾向が続いていたが、その過程で世界の投資家は米国株をオーバーウェイトしてきた。

 https://www.ft.com/content/654f724d-e694-4ba5-b525-1f057b841a53