英字紙ウォッチング

英語メディアの経済、政治記事を定点観測

ケインズならどうしたか

 エコノミストより。

 コロナウイルスは富裕な国々を深い債務の世界に突き落とし、このうちのいくつかの国では困難な選択を強いられるだろう。誰が痛みを負い、誰が得をするのか。

 1940年に発行されたパンフレット「いかに戦争のコストを支払うか」において、ケインズはイギリス政府が1910年代後半に行った方法を振り返り、大量の負債を増税とインフレの組み合わせで乗り切ったことを説明した。

 賃金はインフレほどには上昇せず、そのことは消費者の所得が資本家階級の手の中にあることを意味したと書いている。一方、債券保有者である富裕層は、融資の利子による利益を得ることができた。

 ケインズは今こそ労働者は直接、政府にお金を貸し付けるべきであり、後になれば、政府は利子をつけて労働者に返してくれるだろう、と論じた。

 いまやコロナウイルスと戦うために、特に豊かな国々においては債務を大きく増やしている。そのために、経済に長く続く影響を与えることになりそうだ。特に富の分配面での影響が心配になる。

 ケインズが論じた当時と比較し、現在の債務はケインズが想像もできないほど多額の債務を先進国は背負っている。

 先進国経済の赤字は今年、平均的にみてGDP比で11%の赤字を計上しそうだ。これは今年後半にロックダウンがなく、徐々に経済が回復するというIMFの前提に基づく。先進国の公的債務は66兆ドルにおよび、これはGDPの122%に相当する。

 これほどの債務を返済する場合、主に3つの方法がある。一つは税収を使って返済する方法。2つ目は返済をしない方法。3つ目は長い時間をかけて借り換えを続ける方法だ。

 1番目の方法の障害は政治である。この解決法には増税と歳出削減の組み合わせが必要となる。2007年から2009年までの金融危機の後、先進国経済の債務は約3分の1増えたが、多くの国は歳出を減らす方法を選んだ。2010年から2019年にかけて、アメリカとユーロ圏諸国はGDP比の歳出比率を3.5%近く落とした。英国に至ってはその割合は6パーセントに及ぶ。

 国民の間にも公的債務をこうした緊縮財政という手段で返済しようという意欲は少ない。

 2番目のデフォルトないしは債務リストラ案は、新興国で採用されるかもしれない。仮にそうなれば、非常に多くの苦難が待ち構えている。そうなれば、資本市場から締め出され、多くの問題が生じることになる。

 豊かな国々の政治家らは、歳出から離れ、増税に向かうことを敬遠している。そして、政府債務の金利を、成長率とインフレが上回ることが前提となる。そうであれば、時間をかければ、GDP比の債務は減少していくからだ。

 2019年のスピーチの中で、オリバー・ブランシャール氏は、多くの人が考えるよりも、こうした戦略は理にかなったものだと述べた。米国の歴史を振り返ると、名目金利よりも成長率の方が高い時期が多かったと述べた。

 たしかに第二次大戦後、多くの先進国はこの戦略を採用し、実際にいくらかの成功を収めた。しかし、これは高率のインフレを許容し、金利を抑える必要があった。言い換えると、市民に対し、投資の選択肢を奪い、低金利国債に資金を集中させることを事実上強要することを意味している。1970年代までのこうした動きのことをエコノミストらは、金融抑圧、と呼んだ。

 ラインハート氏らの試算によると、こうした「清算税」と呼ぶべきコストは、日本で7.2%に及んだという。

 こうした状況を作り出すには、資本規制や固定為替相場、銀行貸し出し割り当てなどが必要となる。これは経済の自由を愛する人々への挑戦でもある。しかし、今後数年は政治的にはこうした要求との闘いとなろう。

 https://www.economist.com/briefing/2020/04/23/the-pandemic-will-leave-the-rich-world-deep-in-debt-and-force-some-hard-choices