英字紙ウォッチング

英語メディアの経済、政治記事を定点観測

Fedの最適バランスシートサイズ

 バーナンキ前議長の新しい投稿。
 Fedはバランスシートを大きいまま維持すべきか、と問いかけている。前議長が最初にジャクソンホール会合に出席したのは、議長としての任期の最後のことだった。
 いつものように、メディアはFOMCの次の動きを予想することにほとんど集中していた。しかし、より興味深い議論は、Fedの長期的な政策の枠組みに関するものだった。この投稿においえt、私は一つの重要な討論について報告しようと思う。それはつまり、長期的にみて最適なFedのバランスシートのサイズに関するものだ。
 コンファレンスで行われたもっとも強い議論は、現在のFOMCで計画されているようにバランスシートのサイズを危機前のレベルまで縮小させる議論ではなく、バランスシートを大きくしたまま保つ戦略を支持する意見だった。
 Fedのバランスシートは金融危機以降、約5倍に膨らんだ。現在は4・5兆ドルになる。サイズが大きくなったのは主に、Fedによる大規模な資産買取が影響している。2014年10月以降、資産買取を停止しているが、2・5兆ドルの米国債と1・7兆ドルのMBSを依然として保有している。
 Fedのアセット拡大に対応して、バランスシートの負債サイドも大きく変化した。危機前のFedの負債はほとんど現金通貨だった。現在も1・4兆ドルが通貨だが、もっとも大きな項目は準備預金である。これは現在2・4兆ドルにのぼる。
 重要なのは、バランスシートの規模増大と準備預金の増大にとって、短期の政策金利に影響を与えるやり方だ。現在は、リザーブ(準備預金)の規模があまりに巨大なので、少々リザーブの供給を変えたところで、政策金利に影響することはない。現在、Fedが影響を及ぼしうるのは、超過準備預金(IOER)の金利を変えることだ。
 Fed金利に及ぼすコントロール力を向上させるため、それ以外の民間機関投資家、たとえば、MMFなどへの付利(RRP)も行っている。現在、IOERは0・5%、RRPは0・25%だ。
 このFedのやり方は海外中銀のやり方と似ている。Fedのバランスシートのサイズは、短期金利に影響を及ぼす方法と強くリンクしているので、ジャクソンホールにおける議論は、どの政策の組み合わせがより意味があるのかについて集中した。すなわち、2008年以前のように、比較的小さなバランスシートと準備預金の供給を変えることで政策金利をマネジメントするやり方。もしくは、現在のように、大規模なバランスシートで、IOERとRRPを操作することで金利を変えるやりかただ。FOMCが公式に宣言している戦略は、2008年以前のやり方に復帰する戦略だ。
 その計画とは、適当な時期に満期が到来した証券への再投資を停止し、バランスシートを自然に縮小させる。そして、RRPプログラムを終了させるものだ。
 この計画はうまくいくのだろうか。その答えははっきりしないが、コンファレンスにおける議論に基づくと、私自身はこのやり方を変えて、バランスシートを今のまま大規模に保ち続けることについて、3つの議論があると思う。
 まず第一に、グリーンウッドらが提出した論文によると、大規模なバランスシートは金融の安定性を高めるツールになりうるという。民間部門の投資家には、安全で流動性がある短期証券に対し、強い需要がある。金融規制が強化され、MMFや銀行などは、より安全で流動性の高い資産を保有したがっている。
 では、どうやってこういう需要を満たすことができるのか。一つの可能性は、市場に任せることだ。しかし、これは経験上、うまくいかないことを我々は知っている。これをうまくワークさせるには、Fedが準備預金などの形式で短期資産を供給することだ。これは究極の安全資産である。
 2つめの問題は、Duffieらがカンファレンスのペーパーで示唆したように、RRPと協調した大規模なバランスシートは、金融政策の効きを改善しうる。Fedは、政策金利をコントロールすることによって、望ましい経済効果を期待している。しかし、いくつかの理由によって、銀行は政策金利の変化を完全に反映しない。それは市場が分裂していること、不十分な流動性によって、市場が完全ではないのだ。
 さらに、最近の金融規制の変化は、こうした金融政策のトランスミッションカニズムを悪化させている。
 3つめのFedがバランスシートを大規模に保つありうる動機は、LLR、つまり最後の貸し手機能に関わる。金融危機の最中に流動性をシステムにうまく供給するには、金融機関が借りやすいようにしていなければいけない。いわゆるスティグマ問題だ。
 金融危機の際、Fedスティグマ問題の払拭に苦労したが、ユーロ圏においては、この問題はそれほど深刻ではなかった。考えうる理由は、金融危機の前に、欧州の金融機関はECBの準備預金と借り入れが大きかったからだ。つまり、平時においても、欧州の金融機関は中央銀行と定期的に取引をしていた。
 もちろん、こうした議論を過大評価するつもりはない。よくあるように、物事にはトレードオフがある。危機時に流動性を供給するには、中央銀行は民間銀行のモラルハザードを低下させておく必要がある。
 では、これだけのメリットが大規模バランスシートには存在するのに、有力な反論は何なのか。また、FOMCは明らかにバランスシートを小さくしようとしているのはなぜなのか。
 一つの理由は、RRPプログラムが金融パニックの際に不安定化することに対する懸念である。
 もう一つの有力な大規模バランスシートに対する反論は、プリンストン大学のSims教授によるものだ。Sims教授の指摘は、バランスシートが大きいと、中央銀行は財政的な損失を負うリスクが高まるというものだ。この損失は究極的には政府の財政ポジションに影響しうる。そして、財政的な損失は立法府の反応を招きかねない。そして、中央銀行の独立性を脅かしうる。
 Sims教授はleanなバランスシートが望ましいとし、中央銀行によって財政的なリスクを負うことを最小化すべきだと説いている。
 Sims教授の指摘は重要であり、中央銀行界の聴衆に感銘を与えたようだ。
 https://www.brookings.edu/blog/ben-bernanke/2016/09/02/should-the-fed-keep-its-balance-sheet-large/