英字紙ウォッチング

英語メディアの経済、政治記事を定点観測

低所得国のワナ

 クルーグマン教授のニューヨークタイムズのコラム。教授は来週、経済モデルの変貌について講演を行う予定だ。金融危機後にマクロ経済学の理解がどのように変わる、また変わらなかったのか、教授なりの理解をプレゼンテーションするのだという。
 ゼロ金利制約のもとでは、どれほど大規模にマネタリーベースを増やしてもインフレは起きないこと、財政赤字金利を上昇させないこと、そして、財政政策の乗数効果は大きいこと、さらに財政緊縮策はひどい結果をまねくこと、と主張している。
 記事に添付されたグラフをみると、財政緊縮度が高いほど、GDPの落ち込みは大きいようにみえる。
 http://krugman.blogs.nytimes.com/2015/11/28/demand-supply-and-macroeconomic-models/?partner=rss&emc=rss&_r=1
 後発者の利益についての論考。経済理論によると、低所得国のほうが、より早く成長をする可能性があるのだという。現在は資本や所得が低いけれど、国際的な企業や投資家にとって魅力ある投資先を提供できるからだ。さらに、先発する高所得国の持つテクノロジーを活用することもできる。
 問題はこのコンバージェンスがどのようにして起きるのか。そのプロセスである。
 新たな論文によると、低開発国は依然として低開発のまま抜け出せないのだという。経済の階段をのぼることができないのだ。セントルイス連銀に掲載されたペーパーより。
 米国の10から40パーセント相当の一人当たり所得を持つ国は、1950年以降、成長することができた。香港やアイルランド、スペイン、台湾などだ。しかし、メキシコやブラジル、エクアドルなどのラテンアメリカ諸国は、同じ中所得国でありながら、過去60年間の成長率は低いままだった。
 一方、米国比10パーセント程度の一人当たり所得を持つ低所得国はどうだったか。過去60年間の実績をみると、これまたさまざまな成長の軌道をたどっている。中国やインドは中所得国に成長できた。
 すべての国について計算してみると、低所得国にある国は、10年だと94パーセントが低所得国のままであり、20年では9割、60年たっても8割が低所得国のままであるという。つまり、経済学の理論がいうほど、低所得国を抜け出すのは簡単ではない、というわけだ。
 一方、中所得国を抜け出す確率はもう少し高い。30から61年という観察期間をとると、36パーセントの国が中所得国を抜け出すことができている。さらに、興味深いのは、いったん高所得国になると、それ以降は中所得あるいは低所得国に転落する例はほとんどないということだ。
 これらのことを考え合わせると、次のようなことが言えるのではないか。
 一つは、現在の所得にとらわれ、抜け出せない国々があると、簡単にいえないということだ。貧困のワナは本当に存在するのか。疑ってかかる必要がある。ワナがあるのはむしろ、中所得国や高所得国であり、彼らはめったにそのポジションから動くことはない。
 もう一つは、中国とインドという顕著な例である。両国とも10億人を超える人口を持つのに、低所得国から抜け出すことができた。
 さらに、アイルランドとメキシコという2つの中所得国の例も注目に値する。両国は実に対照的な道行きを示している。アイルランドは外国投資に対し、国を解放した。それに対し、メキシコは何十年にわたり、主に石油の輸出に注力したが、政府は教育に投資することができなかった。挙句の果てに巨額の政府債務を築き、高いインフレという弊害をもたらした。
 メキシコとアイルランドという2カ国の違いをみると、中所得国であることは、十分条件ではなく、必要条件に過ぎないことがよく分かる。
 そしてやはり、継続して経済成長を実現できるということは、低所得国や中所得国の国民の生活に大きな影響を与えるということだ。成長すれば、購買力が増し、人々の選択する職業も代わる。居住スペースも変わり、子どもたちの教育、家族との絆、企業の繁栄や村や町のあり方も大きく変わる。
 http://conversableeconomist.blogspot.jp/2015/11/will-convergence-occur.html