英字紙ウォッチング

英語メディアの経済、政治記事を定点観測

緊縮財政ドグマの終わり

 欧州で緊縮財政への動きが終わりを告げようとしている。ブルームバーグの記事は、「We’re witnessing the end of the dogma of austerity」と表現している。しかし、今年9月にメルケル首相が三選を果たすまで、大きな動きにはならないという見立てがある。
 http://www.calculatedriskblog.com/2013/05/the-end-of-austerity-in-europe.html
 ゼロ金利制約下における財政政策の進め方の正しい速度について、オックスフォード大のSimon Wren-Lewis教授の考察。この議論は、財政刺激の効果より長い目でみた公的債務のコントロールを重視した考え方で、議論の出発点から間違っていると主張している。
 公的債務の水準が高いと、民間資本をクラウディングアウトし、税制のゆがみを生じさせると言われている。しかし、このことは長期では当てはまるが、ゼロ金利制約下では妥当しないという。
 また、マーケットは現在の財政状況よりも、財政に対する将来の信認を重視する。それゆえ、中期的な財政再建計画が重要である。つまり、財政ルールが重要であり、年金や医療改革が重要であるゆえんだ。問題は、いま財政再建に取り組むことがマーケットの信認を高めるか否か。もし今財政再建に取り組むことがマーケットの信認を高めることにつながらないのであれば、現在の緊縮財政(frontloading austerity)自体が論点とはならなくなる。
 引用されている次の文章も興味深い。
 “The econometric evidence is rough, however, and may not carry the argument. Adjustment fatigue and the limited ability of current governments to bind the hands of future governments are also relevant. Tough decisions may need to be taken before fatigue sets in. One must realise that, in many cases, the fiscal adjustment will have to continue well beyond the tenure of the current government. Still, these arguments support doing more now.”
 やはり財政再建疲れというものが存在し、民主主義政体においては政権交代というものも生じる。財政再建は通常、政権の存続期間より長期にわたるので、政治としては財政再建をつい今行う、と主張しがちになる。
 この主張自体が矛盾しているとWren-Lewis教授は指摘している。
 http://mainlymacro.blogspot.jp/2013/05/blanchard-on-fiscal-policy.html?utm_source=feedburner&utm_medium=feed&utm_campaign=Feed:+MainlyMacro+(mainly+macro)
 この議論の手がかりになっているのは、ブランシャール氏らが投稿した次の記事だ。財政再建を今行うか、それとも経済が回復してから行うかを決める決め手の一つは、乗数効果の大小。過去の事例を研究したところ、乗数効果は不況時に大きく出るという。
 また、不況時に財政再建を無理して行えば、経済はリセッションに陥る危険性がある。また、ヒステリシス(履歴効果)も指摘されている。
 財政再建の必要性の根拠について、ブランシャール氏らは次のように整理している。教科書的には債務によって資本が置き換えられる効果と、税制のゆがみを生じさせる2点がよく指摘される。それに加えて、debt overhang(投資家の国債への信認が崩壊し、高い金利を要求されるようになること)とmultiple equilibria(複数均衡)リスクを指摘している。後者は以前、セントルイス連銀のブラード総裁が指摘していた点だろう。良い均衡と悪い均衡があり、日本などは後者の可能性がある、というものだ。
 http://www.voxeu.org/article/fiscal-consolidation-what-speed
 また、ローマー教授は、財政ルールや財政に制約を与える方法について、具体的に議論している。たとえば、として挙げられているのは、財政に関して憲法ルールとして定めるとか、財政を監視する独立の組織を設けるなどのアイデアだ。
 http://blog-imfdirect.imf.org/2013/05/03/preventing-the-next-catastrophe-where-do-we-stand/