英字紙ウォッチング

英語メディアの経済、政治記事を定点観測

迷うオバマ、英国の体面

 9月に入った。明日から学校には子供たちの歓声が戻ってくるのだろう。
 一方、新たな局面入りしたといえるのがシリア情勢。オバマ大統領はシリアを限定的に軍事攻撃する決意を固めた。ただ、議会の同意を得て、政治的な正統性を得たい考えだ。
 オバマ大統領がシリア攻撃を正統だとする根拠は、シリア政府が1400人を化学兵器を使って殺害した、という点だ。1400人の中には400以上の子供たちが含まれている。問題は、化学兵器を使って大量殺りくをした政府に対し、米国はなぜ攻撃できるのか、だ。確かに、化学兵器を使って1400人も殺害することは決して許されることではない。が、米軍の攻撃によって、1400人以上の犠牲者が出ることは十分考えられるだろう。
 オバマ大統領が議会の同意を得るプロセスを踏もうとしている点も興味深い。議会の意見はおそらく賛否両論に真っ二つに割れる可能性が高い。議会の同意という条件を大統領自ら課したことは、政治的にはハードルを自ら上げたことを意味する。シリア攻撃に伴う道義的非難のリスクを議会とシェアしようという考えなのだろうが、このプロセスに踏み出したことの危険性をどの程度考えたのか。
 イスラエルでは、オバマ大統領が議会の同意を攻撃の条件としたことについて、懐疑の声があがっている。米軍の中東地域に対するコミットが弱体化している、との誤ったメッセージを与えかねない、という評価である。米国のためらいが、イランによる核兵器開発の野望を増大させかねないと恐れている。
 今週G20でオバマ大統領はロシアのプーチン大統領と会談する。シリア情勢の帰趨を決める天王山は、ここにある。
 http://stream.wsj.com/story/syria/SS-2-34182/
 http://online.wsj.com/article/SB10001424127887324463604579046902682624072.html?mod=WSJAsia_hpp_LEFTTopStories
 FT紙も同種の記事を掲載している。英国で議会の否決があったように、米国も二の舞になる可能性がある、と指摘している。
 米議会で攻撃の可否を決めるのは9月9日。
 このオバマの決定は驚きをもって受け止められている。英国で議会が同意しなかったことが、明らかにオバマ大統領の決定に影響を与えている。いわば、英国議会ショックともいえる現象だ。
 オバマ大統領の次の発言も興味深い。
“our capacity to execute this mission is not time-sensitive; it will be effective tomorrow, or next week, or one month from now”
 今日よりも明日、明日よりも来週、それよりも1か月後のほうが、より効果的にミッション(シリア攻撃)を確実に遂行できる、という。軍事的にはまだ準備不足なのだろうか。また、軍事的な狙い(目標)は最終的に何なのだろうか。
 http://www.ft.com/intl/cms/s/0/481d2168-1279-11e3-9bcd-00144feabdc0.html#axzz2db1Lgwb2
 先日の英国議会の決定は、英国自身のプライドをえらく傷つけたようだ。FTは社説において、次のような論陣を張っている。「孤立主義が英国の体面を傷つけた」と。FT紙は、軍事攻撃に参加しないことは、コソボシエラレオネ人道主義的な軍事介入の原則を支持してきた経緯に反することになる、と批判している。英国が今後、グローバルに行動する主要国としての地位から滑り落ちるのではないか、と懸念している。
 http://www.ft.com/intl/cms/s/0/896db8b2-1166-11e3-a14c-00144feabdc0.html#axzz2db1Lgwb2
 シリア問題が浮上したことで、9月のFedのTaperingの行方は分からなくなってきた。以下はそのことを指摘したブログ記事。シリア攻撃と債務上限の議論が組み合わさり、経済情勢の先行きに暗雲が垂れ込め始めている。
 http://blogs.wsj.com/economics/2013/08/30/syria-budget-battles-raise-questions-about-september-taper/