英字紙ウォッチング

英語メディアの経済、政治記事を定点観測

エヴァンズ基準

 Fedが金融緩和の終了に転じる基準として考えている具体的な雇用市場の条件は、シカゴ連銀のエヴァンズ総裁が昨年11月のスピーチで示している。そのスピーチを読んでみる。
 http://www.chicagofed.org/webpages/publications/speeches/2012/11_27_12_cdhowe.cfm
 まず、昨年9月のFOMCで導入した重要な政策変更を2つ挙げている。一つは、労働市場が実質的に改善する見通しが出るまで、MBSをオープンエンドで買い続けること。もう一つは、経済が回復した後も相当期間、緩和的な姿勢を続けることを示したこと。
 米国が直面している課題として、2つ挙げている。一つは公的債務のGDP比が70%に達し、歴史的にみて高い水準にある(日本は200%!)と指摘している。もう一つは、この高い公的債務は、高齢化する人口への社会保障給付の財源のせいであること。米国もベビーブーマーがリタイア世代に突入し、年金をはじめとする社会保障給付の水準が妥当か、問い直されようとしている。世代間格差が問われている点で、問題の所在は日本とまったく同じである。
 米国財政を持続的な道のりに持っていくためには、4つのメッセージが重要であると指摘している。
 一つは、米国の消費者は、もはや世界経済の成長のエンジンたりえないということだ。米国の人口動態がもはやそうした期待を持てないものとしているという。そして、今回の金融危機によって、多くの家計が債務の重さや資産価格の下落に苦しみ、消費を上向かせることは期待できない。この点は変わっておらず、いかにリーマンショックに始まる金融危機が世界経済の前提を変えたかを物語っている。また、新興国経済の成長は輸出主導であり、そのことは先進国の消費に成長を依存していることを意味している。新興国経済が内需、とくに国内消費主導の成長に転換できるかが問われている。
 2つめ。米国は時間をかけてでも、その財政を改善していく必要がある。
 3番目は金利について。そして、最後は、潜在成長率を引き上げる必要がある、と指摘している。このあたりは、日銀の白川総裁の主張と変わらない。潜在成長率を引き上げるには、経済を自由化し、規制を少なくし、税制は効率的に、そして、自由な国際貿易を推進する。わずか数コンマ%の成長率上昇でも、財政改善に与えるインパクトは大きく、その見返り(Payoff)は大きいとエヴァンズ総裁は述べている。
 2013年も緩慢ながら経済回復は続く。だが、緩慢ゆえに、雇用の回復は鈍い。最新の予測によると、2013年第4四半期の失業率は足元よりわずか0・3%ポイントしか改善せず、7・6%にとどまる。
 そして、今回とられた2つの金融政策について。まず、オープンエンドのMBS購入は、買い入れによって長期金利を押し下げ、金融条件を緩和的にすることによって、ビジネスや家計の支出を刺激することを狙ったものだ、と位置づけている。今回の施策がこれまでと異なる点は、買い入れの具体的な金額というより、経済の結果の長さと結び付けられた(to tie its length to economic outcomes)ことだ。特に、”the FOMC said that the purchases will continue until there is substantial improvement in labor markets.”
 そして、次が有名になったくだりで、労働市場回復の条件として、具体的に、雇用者数の増加が毎月20万人以上、それが6か月間続くこと。そして、今より高いGDP成長率となること、を挙げている。
 ”The natural question at this point is to ask: What constitutes substantial improvement in labor markets? Personally, I think we would need to see several things. The first would be increases in payrolls of at least 200,000 per month for a period of around six months. We also would need to see a faster pace of GDP growth than we have now — something noticeably above the economy’s potential rate of growth. Such concurrent gains should be enough to produce sustainable downward momentum in the unemployment rate and to make us more confident that the improvements are sustainable. Once we established that there has been this substantial improvement in labor markets, we would stop adding to our balance sheet. But we would keep the funds rate near zero for some time longer.”
 また、利上げの条件となる経済条件について、具体的な数値目標を設けるとの主張について、同僚のイエレン副議長やコチャラコタ総裁らの名前を挙げて、検討に値すると指摘している。