英字紙ウォッチング

英語メディアの経済、政治記事を定点観測

スイス中央銀行

 また、久しぶりの更新となる。
 今日は曇り。今週も忙しい1週間だった。のんびりした休日の朝となった。
 朝、雑事をこなして、PCに向かう。

 FT電子版でまず目に付いたのは、ロシアのスパイが冷戦期並みに活動している、という警告記事。知らなかったのだが、今週米国でロシアのスパイが逮捕された。元ロシアスパイのリトビネンコ氏がロンドンで殺されたのは2006年。その後、ロシアと英国との関係は冷え切ったままだという。美人スパイが登場するので、騒がれているようだが、そういう背景がある国の新聞の報道である。

 さて、本来の経済、金融関係のニュースに戻って、ここ数日の記事を追ってみる。
 一つ目は欧州銀行がECBから1年前に借りた4420億ユーロの緊急融資の返済に関する記事。
 http://www.ft.com/cms/s/0/5e994538-84f7-11df-adfa-00144feabdc0,s01=1.html
 1100銀行以上が返済したが、このうち78銀行は7月1日、6日間特別に1120億ユーロ借りたいと申し出たという。昨今、資金調達が困難になっているためだ。
 この12ヶ月ローンが終了することで、いくつかの銀行に問題が起きるのではないか、という恐れが広がっていた。ドイツとスペインの銀行は、再考を求めるロビー活動を行っていた。しかし、ECBはこうした緊急融資を続けると、市場をゆがめてしまう、との恐れを抱いていた。
 今週オファーされた金利1%での金額無制限・3ヶ月物流動性供給策への応札は、1319億ユーロで、予想より少なかった。これは前述の4420億ユーロの緊急融資の返済をスムーズにさせるための措置だが、応札が予想より少なかったことは、ECBを安心させた。
 これは何を意味するのか。ECBは12ヶ月の融資を取りやめても大丈夫で、流動性の期間構造が劇的に変わったと認識している可能性があるという。しかし、過剰流動性供給を取りやめるのは、欧州の一部銀行の健全性が不安視されている状況で、金利の上昇圧力となる。
3ヶ月ユリボー金利は0.782%に上昇。
 6日間オペへの入札が多かったことは不可解(puzzling)だ。銀行は、ECBが6ヶ月や1年オペの再開を迫られると期待している、という解釈がある。
 ストレステストやその後の公的資金注入の可能性にも触れており、今の欧州の金融市場、金融機関の状況をよく伝えていて、分かりやすい記事。

 同種の記事は下記も要参照。
 http://www.ft.com/cms/s/3/456fc398-84ed-11df-adfa-00144feabdc0.html
 ECBの1年前の緊急融資の償還が来るに伴い、ECBは6日間の流動性供給と3ヶ月ものオペで対応しようとしている。それぞれの応札は予想より少なかったが、いろんな思惑があるだけで、危機が去ったわけではない。「the eurozone bank funding crisis is far from abating」だ。欧州銀行の調達、流動性危機だ。マネーマーケットのファンディングコストは上昇。ECBによるオペ金利1%に近づいている。問題は欧州銀行のソブリンへのエクスポージャーと不動産融資がどれくらいか。

 トリプルA格から落ちるという、格付け会社の事前の警告にも関わらず、7月1日のスペイン国債の入札は順調だった。金利は3.65%。応札倍率は1.7倍。
 http://www.ft.com/cms/s/0/a4878a48-84f0-11df-adfa-00144feabdc0.html
 イールドは急上昇したが、5年もの35億ユーロを調達。ドイツ国債に比べて、利回りが魅力的と映ったようだ。入札が順調だったことで、10年もの国債金利は4.55%に6ベーシス下落。ユーロはドルに対して上昇した。
 おおむね市場からはgood dealとの評価のようだが、FT紙は、ユーロ圏の緊急融資ファシリティ金利である4%に近づいている点を警告している。

 さらに、6月30日の記事(FT社説)から。
 http://www.ft.com/cms/s/0/426329c4-847a-11df-9cbb-00144feabdc0.html
 ECBの流動性供給策縮小について、FT紙は歓迎すべき、と評価している。
 1年ものから3ヶ月ものへの流動性供給が変化することをどう見るべきか。ECBに調達を依存している銀行にはプレッシャーとなる。
 6月29日、欧州の銀行は4420億ユーロのロールオーバーに対し、1320億ユーロをより短期の3ヶ月もので借り替えた。銀行のファンディングについて言えば、問題は改善していると言える。
 しかし、危機から脱却(out of the woods)できたわけでない。特に南欧の銀行はfragileだ。問題は流動性の問題から、銀行のsolvencyの問題に移った。悪い銀行と健全な銀行を分けるべきだ。緊急時の流動性供給を続けることは、その見分ける作業を困難にしてしまう。

 ストレステストについて、こんな記事も。
 http://www.ft.com/cms/s/0/07998456-860e-11df-bc22-00144feabdc0.html
 
 http://blogs.ft.com/money-supply/2010/07/02/webers-own-stress-test/
 ストレステストはドイツの銀行にとってのテストというだけでなく、トリシェECB総裁の後継最右翼とみられているブンデスバンクのウェーバー総裁にとってもチャレンジになる、という指摘。トリシェの任期切れは来年11月。
 ウェーバーがトリシェの後任になるには、ドイツ国内だけでなく、ユーロ圏の支持を得なければならない。もし、ウェーバーがストレステストにおいて、ドイツ国内の銀行を守るような動きに出れば、ユーロ圏の支持は得られまい。問題は、ウェーバーがあまりにGermanとみられている点。ウェーバーはすでに、5月にECBが開始した国債買い入れ策を批判している。
 
 最後に、スイス中央銀行に関するジリアン・テットのコラム。
 http://www.ft.com/cms/s/0/c922efb0-8571-11df-aa2e-00144feabdc0.html
 スイスは欧州で2番目に高い成長率を誇っているが、このことはいまのような混乱期には、中央銀行にとって頭痛の種になっている。
 スイスに資金が流入し、スイスフランは対ユーロで上昇圧力となっている。スイス中銀は大規模な非不胎化介入を行った。その結果、スイス中銀の外貨準備高は4,5月に急増し、1456億ドルから2619億ドルに50%増加。
 先月に入って、SNBはその姿勢を変えたように見える。スイスフラン高は、銀行に懸念を引き起こしている。ハンガリー向け不動産融資の大半は、スイスフラン建てだからだ。
 SNBは、為替介入に否定的だ。ひとつは、非伝統的な金融政策からの出口政策を探っているところであるため。
 来月おそらく、SNB保有する資産の評価減数十億スイスフランを公表する。
 これは財政的には問題ないが、政治的には批判を引き起こす可能性がある。SNBヒルデブラント総裁は、金融規制改革に積極的。
 スイスフラン高は、スイスの輸出業者、ハンガリーの住宅所有者双方にとって、インプリケーションを持つ。SNBだけでなく、FEDBOEもECBもそれぞれ、大量の国債GSE債を購入している。仮に、保有資産に損失が出た場合、中央銀行の信認にどう影響するのか。