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書評②「年金の誤解」

 書評第二弾。「年金の誤解」(堀勝洋著、東洋経済新報社)。2005年2月発行。

 タイトルにあるように、年金が破綻しているという主張や、年金は世代によって損得があるなどという主張に反論する目的で書かれている。主な反論相手は金子勝教授や高山憲之教授である。
 論点に沿って10章だてになっているが、主要な論点は次の3点だろう。
 ①年金は破綻しているか?→著者の主張は「破綻していない」②国の年金に加入するのは損か?→「払った保険料以上の年金がもらえるので、むしろ得である」③年金保険料を全額税方式に切り替えるべきか?→「保険料方式の方に利点があり、切り替えるべきではない」。
 
 疑問がいくつか。
 一つは、年金財政の維持可能性をどのように判断するかについて。著者は、債務超過論は、日本の年金制度が積み立て方式であるとの誤解から生じており、誤りであるとする。また、日本の年金制度は賦課方式であるため、バランスシートも作成できないという。そして、「530兆円の財源不足があるからといって、将来年金財政は破綻するというわけではない。破綻しないよう年金制度を改革すればよいからである」(P17)という。
 この論理を貫けば、どんな制度も破綻しない。破綻しないよう、改革すればよいからである。日本の財政も破綻しない。企業も破綻しない。ましては、個人も破産しない。
 賦課方式であるなら、著者が言うように、論理的には破綻しないかもしれない。未納や未加入も問題ではないかもしれない。しかし、著者の説明には、現行の年金制度が維持可能かどうか判断する仕組みがない。現役世代と高齢世代のバランスがますます悪くなる中、所得代替率50パーセントを将来も維持できるのか、疑問が残った。
 2つめは、損得論。53ページの図において、本当に保険料の2倍以上の給付を受けられるカラクリ。事業主負担分の保険料を抜いてあるので、2倍という数字が出てくるのだろうが、給付と負担、年金財政の観点からは、事業主負担分も含めて比較せず、払った分の2倍もらえる保険があると喧伝するのは、無責任ではないか。
 3つめは、現行の年金制度は社会保険なのかどうか。161ページ以下で保険方式(社会保険方式)と税方式(社会扶助方式)の特徴の違いを整理し、社会保険方式の利点を強調している。しかし、基礎年金の税負担が2分の1(本書執筆時点は3分の1負担)である社会保険制度の性格をどう捉えたらよいのか、分からない。賦課方式なので、自分の拠出した保険料は、給付と直接リンクしていない。その意味で、保険方式でいう等価性や対価性は財源の上では無関係ではないか。また、税方式と保険方式がミックスされているので、保険方式の利点である等価性や対価性、保険性という特徴は崩れているのではないか。

 それにしても、全体的に本書の記述は分かりにくい。専門用語がやさしい解説なしに頻出するし、読み通すには随分忍耐を要する。たとえば、7ページの図も、普通の人はなかなか飲み込めないだろう。年金は破綻していない、2004年改革で100年安心だ、と著者は訴えたいのだろうが、大半の読者は難解すぎて本書の記述についていけないだろう。タイトルのような「年金の誤解」が生じたのも、著者のような専門家が、分かりやすい解説をしてこなかったことも一因ではなかろうか。