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書評①「消費税のカラクリ」

 書評を始めることにした。本はよく読む方なので、読んだ本のうちから気になった本を採り上げていきたい。

 第1弾は斎藤貴男氏の「消費税のカラクリ」(講談社現代新書)。2010年7月刊。
 
 著者の指摘する消費税の問題とは、中小零細企業の場合、大企業との交渉力が弱いために仕入れにかかわる消費税分の価格転嫁が困難で、「益税どころか、むしろ損税となっている」(50ページ)という主張に集約される。「消費税とは力関係がすべてである」(63ページ)、「消費税とは弱者のわずかな富をまとめて強者に移転する税制である」(133ページ)とも表現している。
 制度の欠陥としては、過大な事務負担、国税当局の恣意的な運用、輸出戻し税制度で大企業が恩恵を受けている(90ページ)点を挙げる。
 その結果、消費税の滞納額は国税中最も多い4000億円超にのぼる。消費税を価格に転嫁できないため、死に追いやられる事業者もいるという。

 また、消費税が非正規雇用を拡大させた、と指摘している。人件費を正規雇用でなく、派遣という形で外注することで、節税できる仕組みが存在する。資本金が1000万円未満の法人は、設立後2年間は消費税の納税を免除される規定を悪用する法人も続出している。この問題を指摘したのは、本書の最大の功労だろう。
 
 ただ、中小企業の苦境をすべて消費税のせいにするような論調には違和感を覚えた。個々の指摘は大変鋭いし、制度の手直しを通じて改善できる余地があるように思うが、中小零細企業の利益が増減は、すべて消費税が原因というわけではなかろう。消費税導入当初や引き上げ当初の年次には転嫁がしにくいという問題はあるだろうが、2年目以降は消費税率が変わらないので、利益の増減因は別のところにあるはずだ。

 著者の言う、消費税の代案は陳腐だ。より大きな視野でみて、財政再建をどう進めるか、という視点も弱い。滞納額4000億円に対し、財政赤字は40兆円という規模であり、桁が2桁違う。4000億円は確かに問題だが、40兆円をどうするかという視点がない。不公平税制を是正することで、合計20兆円近い財源を創出できるという主張も、消費税の欠陥を指摘するくだりと比べて説明が貧弱で、根拠がよくわからない(210ページ以下)。
 無駄の削減や特別会計の見直しも、希望的観測に過ぎないように思う。全体的に、税制原則でいう「公平」に配意した主張であり、それ自体は首肯できる部分もあるが、法人税所得税中心に税体系を変え、累進性を上げて財政の問題が解決できるかのような主張はやはりナイーブ過ぎるように思う。
 
 著者の指摘は、マスコミがこれまで等閑視してきた論点であるという意味で大変貴重であり、傾聴すべき指摘だと思う。それだけに、その鋭さが4000億円ではなく、40兆円に向かうことを期待したい。